主人公・鈴木貴広は、不動産営業会社「フマホーム」で、日常的なパワハラ、サービス残業、同僚いじめ、違法な労働条件がまかり通る職場の中で消耗していく。耐えきれず退職を決意するも、辞めたあとも会社から莫大な賠償金を請求されるという罠に落とされてしまう。
「壊職代行」は、理不尽なブラック企業によって心も体も追い詰められた主人公が、“壊す側”の代行業者と出会って復讐の道を歩み始めるサスペンス・社会派作品だ。タイトルそのものに「代行=誰かの代わりに“壊す”」という過激さを孕ませており、一見すると“痛快さ”を売りにした物語に見えるけれど、その裏側には痛みも裏切りも、道義の揺らぎもある。
絶望の中で現れるのが、謎の「壊職代行」業者。代行者の火室静香を中心に、彼女は“壊す仕事”を請け負い、依頼者の敵──悪質な上司や企業──を徹底的に社会的に抹殺していく。静香は単なる破壊者ではなく、標的の“弱点”を徹底的に分析し、その誇り・弱み・言動を逆手に取って地獄を設計する。
たとえば、パワハラ上司・中宮健也を次のターゲットに据えた回では、中宮がかつて部下に浴びせてきた暴言音声をネット公開する、偽のヘッドハンティングで社会的信用を崩す、さらには詐欺グループに潜入させて屈辱を与えるなど、手口の巧妙さと残酷さが際立つ。彼が“教育”を盾に振るっていた高圧的言葉を、自分が受ける構図は、読者に強い反省と痛みを突きつける。
物語が進むに連れて、壊職代行側の内部事情、標的となる企業の闇、依頼者自身の過去と罪・罰のゆらぎも明らかになっていく。そして、鈴木自身も代行側に関わりながら、自分の価値観、正義とは何かを問い直す軌跡をたどる。
壊職代行 第9巻のネタバレ・感想
『壊職代行』9巻は、金賀星屑興業という企業が舞台で、社長・金賀星蔵の妻である金賀成子(56歳)が、若手男性社員へ過剰なスキンシップや理不尽な仕事の押し付けを行うパワハラ・セクハラの描写から物語が始まります。
一方、成子は男性社員をホテルに誘うなど振る舞いはエスカレート。
そんな彼女の横暴に、壊職代行人である静香が潜入し、次第に会社の実態と内部の闇が暴かれていきます。
9巻の後半では、鈴木が壊職代行になったこれまでの経緯や、壊職代行もヘマをすれば自身が“壊職”対象になる危うさがあることが明かされます。
9巻では、ついに壊職対象となった金賀一族が本格的に登場します。
特に成子の横暴さや、表情ひとつで空気を支配する悪役としての存在感が圧巻で、読む手が止まりません。
パワハラ描写も現実にありそうな生々しい内容で、胸がざわつくほどのリアリティと緊迫感を感じさせます。
さらに、これまで鈴木を守る立場だった火室が、今回はあえて厳しく突き放す展開も!
同僚関係に走る緊張感や、“壊職代行側”だからこそ背負うリスクが、物語に重厚さを加えています。ページをめくるたびに息が詰まるような緊張感を味わえる一冊です。
第8巻のネタバレ・感想
これまで水面下で動いていた静香が、ついに表舞台に立つ巻。
笑顔の裏に潜む計算、絶望の淵で燃える正義、そして“信頼”という言葉の重さが問われる展開が息をのむように続きます。
序盤から緊張感が途切れない。
一見、静香が優位に見えても、読めば読むほど彼女の中の「怒り」と「哀しみ」が伝わってきて、ページをめくる手が止まりません。
冷静で美しいけれど、同時にどこか壊れている――そんな彼女の人間らしさが8巻で際立ちます。
一方、間々田という“悪”も、ただの悪人では終わりません。
彼の恐ろしさは権力だけでなく、“自分が悪だと気づかない悪”であること。
それが読者にぞっとするリアリティを与えています。
そして、物語終盤。
一つの「会社」が崩れ落ちる瞬間の静けさと、その後に訪れる新たな舞台への布石――。
この切り替えが本当に見事。
8巻を読み終える頃には、「この先、静香はどこまで行くのか?」という興味が止まらなくなります。
正義と復讐の境界がどんどん曖昧になっていくスリル。
そして、9巻への“静かな嵐”の予感。
第7巻のネタバレ・感想
――暴かれる“過去”、揺らぐ“正義”。信じていたものが壊れる音がする。
6巻までで、悪徳上司やブラック企業を華麗に“壊してきた”静香。
しかし7巻で彼女に待っていたのは、逆襲だった。
突然、社内に貼り出されたある「暴露文」。
そこに書かれていたのは──彼女の“過去”に関する、信じがたい内容だった。
職場の空気は一瞬で変わる。
味方だった同僚たちの目が冷たくなり、静香はひとり、孤立していく。
これまで冷静に相手を追い詰めてきた彼女が、初めて見せる“動揺”。
その姿があまりにも人間らしく、胸が痛い。
そして、背後で糸を引くのはあの男。
「社会的に抹殺する」──そんな冷徹な策略が、じわじわと静香を追い詰める。
ここから先はもう、ただの職場ドラマじゃない。
心理戦と情報戦の幕が上がる。
だが読んでいくうちに、思うのだ。
“壊職代行”とは、本当に悪なのか?
“正義”を名乗る側こそ、もっと残酷なんじゃないか?
7巻は、静香の強さだけでなく、彼女の脆さと信念を描いた転換点。
壊職代行という組織の存在意義すら、読者に問いかけてくる。
息をのむ展開、そして次巻への怒涛の伏線。
スキャンダルは、ただ単に“中傷”という枠を超えて、静香の信用・地位を揺るがす戦略的な攻撃として描かれており、読者としても「次はどう立て直す?」というハラハラ感が強い巻です。
また、間々田側の余裕・狡猾さも際立っており、静香がただの復讐者というだけではない、心理戦・情報戦がメインになる伏線巻でもあると感じました。
テレビ出演といった“公の場”への露出要素を入れてきた点は、これまでの“裏で暗躍”という展開を拡張しようという意図を感じます。7巻は、これから静香の「表の顔」と「裏の活動」のつながりを描く準備をしている巻だと思います。
壊職代行を考察
闇と正義の狭間で漂う問い
この作品を読んでいくと、強く浮かび上がってくるテーマがいくつかある。痛快な“復讐劇”の皮をかぶりながらも、そこには鋭い社会批判と人間の弱さへの洞察が隠れている。
“痛みを代行できるのか?”という問い
壊職代行は依頼者の代わりに“壊す”が、その行為は暴力的手段を含む。誰かを社会的に“抹殺する”という行為は、加害にならないのか。正当性が見えることと、倫理性とのズレが読者には問いを残す。
権力・言葉・信用の脆さ
静香の手口が巧妙なのは、常に標的の“信用”や“誇り”を崩すことを狙っている点だ。見た目の成功や発言力、社会的地位を武器に振るっていた人物が、同じ武器で逆襲される構図は鋭い皮肉を孕む。
“依頼者”という立ち位置の曖昧さ
依頼者は被害者として〈壊す代行〉を求めるが、彼ら自身にも選択と妥協がある。代行に関わることで、正義か自己満足か、あるいは代行に操られる存在になるのか。加害と被害の境界が揺れる構造が、物語の核にある。
復讐後の虚無と再構築
壊職が成功しても、復讐の先に何が残るか。復讐が正義を果たす手段になり得るかどうか。壊した後に“生きる意味”をどう再構築するかが、物語の真の命題になりうる。